« 2015年1月 | トップページ

2015年9月

アカシック・レコード







※何を思ったか二人とも森の仲間みたいな感じです。


















































一面の、白銀。
枯れ木の森は、静かに深く、雪に埋もれていた。




















ここ数日、雪は止まずにしんしんと降り続けていた。


今日も、朝からずっと空と森は一面の白。それでも昼も過ぎ夕方に差し掛かる頃、ほんのわずかに雪が止んだ。それを見計らったように、一羽の鳥が空を翔ける。
痛さを感じるほどの気温の中、ひゅうと風を切っていく。しばらく飛ぶと雪の重さに耐えかねて落ちたのだろう、雪に吸い込まれるように沈む小枝を見つけ、降り立って。
枝の先を口ばしで器用に折ると、それをくわえたまま再び空に飛び立った。












小枝は折れて間も経っていなかったようで、皮の下に十分な樹液を蓄えていた。
その大切な食料になる小枝を持って自分の巣である、高くそびえ立つ楓の幹にある洞に戻る。しかし、そこにはつい先ほどまではなかったものがあった。
赤、黄、紫。色とりどりの落ち葉が敷き詰められた洞の中の隅に、まるく転がっているのはふわふわとした小さめの毛玉。


「…?」


実は、こうした毛玉は冬の森では木の洞や落ち葉の下でよく見かけることができる。
疑問なのは、自分が枝を拾ってくるほんの短い間に何故ここに出現したのか、ということである。
この洞は周囲からは見えにくく、高い場所にあった。
くわえていた枝を落ち葉の上に降ろすと、目の前にある毛玉の端を、つんつんと口ばしでつつく。同時にびくん、と毛玉が跳ねる。思った通りその柔らかい毛玉は温かかった。
すぐにぴょこん、と現れる小さな耳。次いで大きな目がこちらを向いて、慌てたようにぱちぱちと瞬きを繰り返す。
その慌てたわりにどこか眠そうな目蓋に忍び笑って、もう一度、つん、とその毛玉のてっぺんをつつく。続けてつつかれた衝撃に上手く体勢を保てずに、ころん、と軽く後ろに転がった毛玉には予想通り、まあるくくるまった大きな尻尾がついていた。


「もう少し奥で冬眠しないとすぐに食べられちゃいますよ、こりすさん」
「!」


「ここにはたくさん落ち葉があって暖かいのはわかりますけど、もう少し身を隠さないと…」
「あ、えっと」
先ほどよりもはっきりとした光を持った目がぱち、と瞬いて、周囲とくるりと見て。今いる場所が、目の前にいる自分より大きい鳥の住処だと気付いたらしい。小さな毛玉は申し訳なさそうに、そして慌てて身を翻す。
「すまぬ、ここはおぬしのおうちだったのだな」
勢いよくその毛玉―こりすは、洞から出て行こうとする。
しかし、洞の外はまたしても雪が降り始めていた。
冬の森の天気は移ろいやすい。先程までの寒くても凪いだ空気はどこか遠くへと行き、代わりに本格的な吹雪になりそうな勢いで雪と共に風が吹き始めている。
きん、と冷えた空気がほんのすぐ目の前に広がっている。勢いで飛び出ることができると思ったものの、洞の外のそのあまりの寒さに目を細めてふるふると震えるこりすの首根っこを鳥は口ばしでくわえて持ち上げると、洞の奥の方へと運んで降ろしてやった。
ぽすん、と落ち葉に沈んだ毛玉は状況が把握できていないようで、おそるおそる自分の上にある鳥の顔を見上げる。
「?、?」
「今、出て行ったら凍えちゃいますよ」
雪が止むまでいても大丈夫ですから。
そう告げると、どこか警戒心を抱えたままだったこりすは一瞬呆けて。それから少しずつ、安心したように体から力を抜いた。それでもまだ少し不安そうに、言いにくそうに問いかけてくる。
「…その、おぬしはわしを食べないのか?」
この冬において、それは当然の疑問だった。
しかしその質問は鳥にとって予想外のものだった。
「え、食べませんよ。僕らは草食だし。…ってあなたここら辺じゃあまり見ない毛色ですよね。どこか別の森から来たんですか?」
確かにりすを狙う鳥もたくさんいるが、自分達の種類が基本的に木の実や樹液ばかりを食べていることは、この森に住んでいればみな知っていることだ。
するとりすは小さく頷き、少し離れた森からやってきたと答えた。
「今年、わしがいた森はどんぐりが全然実らなくて。冬眠できなくて、お腹が空いて気がついたらここまできていたのだ」
「そうだったんですか」
「うむ。それでちょうど目立たないところに洞を見つけて、ここなら天敵にも見つかりにくいかと思って。でもおぬしに迷惑かけるつもりではなかったのだ、すまぬ」
見るからにしゅんとした様子だった。
足元にある落ち葉に目を向けたまま謝るその仕草がどうにもかわいそうで、そして、何故だかとてもかわいいと鳥は感じた。
深く考える前に脚が動き、洞の奥から蓄えておいたどんぐり、やまぐり、胡桃を出してきて並べる。
とっておきだったけれど、このこりすには分けてもよかった。出会ったばかりという事実はどこかにいってしまっていて、ただ、分けたいな、と思った。
「食べていいですよ。おなかすいてるんでしょう?」
「そんな…これはおぬしの冬籠りの為のものであろう…いいのか?」
いいのか、と訊きつつも出された木の実を見て目をきらきらと輝かせている様に思わず笑ってしまう。
どうぞ、と再度すすめると遠慮がちに近寄り、その小さな手のひらをどんぐりの一つに伸ばす。
「…ありがとう」
きれいにどんぐりの皮を剥ぐと出てきた実を両手で抱えて、かし、と齧りつく。
余程お腹がすいていたのか一生懸命にもぐもぐとどんぐりを食べ続ける姿を横目に、自分も先程飛び立った際に手に入れた枝をくわえる。
いつも口にしている、食べ慣れた冬の小枝。
それが今日はいつもに増してがひどく甘くおいしく感じて、鳥は不思議なこともあるものだと思った。


目の前では相変わらず小さな毛玉がおいしそうにどんぐりを頬張っていた。














































出会い編。笑


昔の掘り出しものです。
カナダにある楓の森のつららは甘いらしく、それを食べる毛玉を入れたかったけど割愛。






このあとこの鳥類と毛玉は冬が過ぎても一緒にいるよ。






| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2015年1月 | トップページ